司法書士の裁判業務の範囲

高松高裁判決に学ぶ 司法書士の裁判業務の範囲



司法書士の裁判書類作成業務の範囲

 司法書士法上、司法書士の主な業務には、

①裁判書類作成業務
②法務局への登記・供託申請代理業務
③簡易裁判所の管轄に属する法律事件の代理人業務

があります。

 ①の司法書士の裁判書類作成業務は簡易裁判所に限りません。司法書士は、地方裁判所・高等裁判所・最高裁判所に提出する書類作成も可能です。
 歴史的には、司法書士の業務は①にはじまるもので、②と③は、①から派生して追加された業務です。
 明治以来、弁護士の権限が徐々に大きくなったことで、司法書士の裁判所提出書類作成業務は一定の制限を受けることになりました。

司法書士制度の歴史
弁護士制度の歴史

 弁護士法による司法書士の裁判書類作成の制限につき、頻繁に参照されるのが、昭和54年6月11日の高松高裁判決です。司法書士を目指す場合は、しっかり確認しておきましょう。

「整序」の意味内容と範囲

 高松高裁判決は、

「司法書士が他人から嘱託を受けた場合に、唯単にその口述に従って機械的に書類作成に当るのではなく、嘱託人から真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるように法律的に整理すべきことは当然であり職責でもある。」

としています。

 一方、同判決は、

 「制度として司法書士に対して弁護士のような専門的法律知識を期待しているのではなく、国民一般として持つべき法律知識が要求されていると解され、従って上記の司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障をきたさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識に基づく整序的な事項に限って行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で他人間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を超えたものといわなければならない。」

としています。

 この「法律常識的な知識に基づく整序」の部分が有名です。「国民一般が持つべき法律知識」に基づき「整序」するというと簡単な法律判断作用しか加えられないように考えられます。しかし、その前提として、依頼者の「真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるように法律的に整理すべき」ということですから、それなりに高度な判断をしなければならい義務を負っていると考えられます。このように、高松高裁判決の「整序」の意味内容は、今一つはっきりしない書きぶりになっています。

法的な助言指導は差し支えないが、限界もある

 高松高裁判決はなおも続けます。

 「『司法書士が、他人の嘱託を受けた場合に、訴を提起すべきか、合わせて証拠の申出をすべきか、仮差押え仮処分等の保全の措置にでるべきか、執行異議で対処すべきか』などまで判断するとともに、『資料の収集、帳簿の検討、関係者の面接調査、訴訟維持の指導』をもなすことが、司法書士の業務ないしこれに付随する業務であるかどうかは、その行為の実質を把握して決すべきである。」

 つまり、依頼者の主張を機械的に記述するのではなく、司法書士側から依頼者に保全措置を行う提案をするなどの行為も、一概には否定されません。

 さらに、

 「例えば訴状を作成する段階でも証拠の存在内容を念頭に置く必要があるし、前示の一般的な法律常識の範囲内で助言指導をすることは、何ら差し支えない

としています。

 ここまで読めば、高松高裁判決は、司法書士の裁判書類作成に、相当積極的な法的判断と助言指導を認めていることが分ります。

 司法書士は、訴状等の作成にあたり法的判断を加えることはできず、依頼者の言うことを機械的あるいはタイプライター的にそのまま記述することしかできないのだという主張が、一部の弁護士にはあります。
 ネット上で代表的なところでは、東京の深澤諭史弁護士(第二東京弁護士会、登録番号43684)です。同氏は、

他士業の資格については,書面作成が認められているケースが多いのですが,この場合の書面作成とは,言い分を法的に整理して,文書の受け取り人が誤解しない程度にする,という程度の関与しか認められていません。要するに言い分をそのまま整理するだけであり,有利な主張,証拠を検討・提案するといった行為は認められないのが原則です。

という主張です。このような極端な考えは、少なくとも「整序判決」として有名な高松高裁判決の趣旨には沿わないことが分ります。

 もっとも、同判決は、

 「これを一律に基準を立てて区分けすることは困難であって、結局はその行為が嘱託に基づく事務処理全体からみて、個別的な書類作成行為に収束されるものであるか、これを越えて事件の包括的処理に向けられ事件内容について鑑定に属する如き法律判断を加え、他人間の法律関係に立ち入るものであるかによって決せられると解すべきである」

ともしています。
 
 結局のところ、司法書士は依頼があれば、最終的に書面に落とし込むためであれば、法律事件についての法的判断を伴う相談に応じつつ、訴状や準備書面作成のために必要な事項を聴取・調査しながら書面作成ができます。司法書士の裁判書類作成業務が、司法書士法の範囲内か、弁護士法違反となるかは、個別具体的な事例ごとに、裁判所が都度判断するしかない、ということになります。

判決文から読み取れる裁判官の考え

 高松高裁判決が、今一つはっきりしない、悪く言えばどっちつかずの中途半端な書きぶりになっているのは、理由がありそうです。

 この判決は、被告の司法書士が7件の事実につき弁護士法違反で訴えられた刑事事件です。この7件の大半が、被告人が民事紛争の代理交渉をしていたと言われても仕方ない案件で、細かい話をするまでもなく、弁護士法違反の事実認定が可能な内容です。基本的にこの話は、松山でまるで弁護士のように民事紛争を扱っていたことで知られていた司法書士を懲らしめようというものなのですね。

 さて、7件の公訴事実のうち微妙なものが3件あり、一審の松山地裁ではうち4件だけを弁護士法違反と認定し、うち3件は司法書士業務の範囲内と認定されました。この3件のうちの1件は、Aさんが経営していたB社についての、会社乗っ取り事件についてのものです。この会社乗っ取りの事情については、詳しい記述されていませんが、判決文から断片的に分かることがあります。この会社乗っ取り事件は、Aさんがすでに弁護士に相談し、訴訟になっていました。この件に首を突っ込んだ被告人の司法書士は、B社の従業員らがAさんの敷地を通行していることに目をつけました。そして、通行権問題で攻めてみると良いという助言をし、訴訟を提起するのを手伝っています。おそらく、もともとの経営者のAさんの土地を通行しないと、B社に不便が生じるケースとなっていたので、この状況を利用して、通行権に関する訴訟を起こすことで、本命の会社乗っ取り事件についてB社の現経営陣を揺すぶり、ことを有利にすすめようという趣旨のアイディアを出して提案をしたものと推測されます。

 要するに、会社乗っ取り事件について、会社法上の正攻法による法律的な訴訟を提起を支援するのではなく、依頼者本人が考えてもいない別件にかかる別訴を提案して紛争を複雑化させて、駆け引きをさせるような提案です。この事実については、松山地裁では問題ないとされました。やってることは訴状作成であり、代理交渉をしているわけではないから、司法書士の範囲内となるからです。しかし、高松高裁では、これは司法書士業務の範囲を逸脱していると考えました。そして、裁判官は、この件を有罪にするロジックを考えなければなりませんでした。その結果が、「法律常識的な知識に基づく整序」です。会社乗っ取り事件について、「一般の法律常識」により会社法上の無効の訴え等を提案するのではなく、まったく別件の嫌がらせ的訴訟を提案して事件の包括的処理を目指すような助言・指導を行い、その訴状を作成するのは、「法律常識」の範囲外であるし、事件を複雑化し、紛争の解決を長期化させ、訴訟の運営に支障をきたすようなことであり、弁護士法違反ということです。

高松高裁判決が問題なしとしている事例

 なお、高松高裁判決は、7つの公訴事実のうち6件については弁護士法違反としましたが、以下の事実については司法書士の業務の範囲内にあり問題ないとしました。

 Cは同人の妻の姪にあたるDとの婚約をEが破棄したことについて、慰謝料150万円くらいを要求して同人と交渉していたが解決に至らなかったため、裁判にするほかないと考え、(中略)被告人を訪ねた。被告人は両者間の交際の程度が内縁にまで達しているかどうか、Dの結婚準備の程度、今後の生活見通しなどを同女について調査し、判例等に当って慰謝料額を算定し、同女の言い分を認めた内容証明郵便を作成し、Cにおいてこれを郵送したが、相手からも内容証明郵便による返事があり、Cとしては訴訟を起こす決意をして訴状の作成方を依頼し、被告人はこれに応じて訴状を作成してCに交付し松山地方裁判所西城支部に提出した。

 当事者の依頼により、判例等を調査して慰謝料を算定し、訴状を作成する。そのような行為は「司法書士の業務範囲内にあり、なんの問題もないというのが、高松高裁の判決です。

 ここまでくれば、高松高裁判決の「射程」が見えてきました。司法書士が、民事事件について、依頼者の相談に乗り、裁判書類を作成することは問題ない。そのための助言や指導をすることも差し支えない。依頼者の真意を実現するために、判例や専門書等で慰謝料額を算定することもあるだろうし、保全の提案もしても良いだろう。しかし、この慰謝料請求事件でいえば、頼まれもしないのに、DのEに対する貸金返還請求訴訟の提案をするような、依頼の本筋とまったく関係のない別件訴訟を提案して、当事者間の紛争の包括的な解決を目指すようなことは範囲外だ、ということになりそうです。

まとめ

Q:司法書士の裁判書類作成業務は、依頼者の主張をそのまま書くことしかできないの?
A:そんなことはありません。依頼者の真意を実現するために、一定の範囲で法的な判断作用を加え、助言・指導することができるというのが高松高裁の整序判決です。



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