司法行政代書人となる秘訣

「司法行政代書人となる秘訣」を読む



はじめに

 独立開業型の資格として人気がある、司法書士や行政書士。

 今も、「司法書士になれる本」「行政書士になれる本」のようなものが沢山発売されていますね。

 そのような本の、戦前版ともいうべき本があります。

 昭和11年6月20日発行の「司法行政代書人となる秘訣」(松陽堂宮本書房)。
 著者は、鈴木啓史。定価は金1円。
 
 著者の鈴木さんは司法書士です。この本の前に、同じ出版社から、「金銭債務調停法と其運用」、「民衆本位登記の実際」、「民事訴訟法の通俗化と訴訟の実際知識 附・功名なる債務者の裏手と対策」(法学士峯川宏之と共著)などの著書を出しています。

 第1編の冒頭、昭和10年5月に司法代書人は司法書士に改称されていますが、この本では司法代書人と記述しているという注意書きがあります。

 また、行政代書人、いわゆる一般代書人は法令上においては単に「代書人」ですが、この本で便宜上行政代書人と記述することが述べられています。

有望性と年収

 当時、司法書士になるには裁判所の認可が必要でした。一方、代書人(後の行政書士)は所轄警察署への許可により営業することができました。
 
 この点につき,司法代書人となるのは、行政代書人に比して、其の認可を受けるのは困難なものですが、認可を得て開業すれば、その裁判所に所属すべき司法代書人数には制限があり、一定数以上に増えることがないので、「別段の競争も起こらずして略確定的収入が得られる」「一生涯のお株として生活の安定が保証される安全第一の有利職業である」、としています。

 収入については、月収100円から300円、まれには400円から500円の収入が有り、ほとんど無資本ではじめられる商売としては、これは結構なものだ、とのことです。

 全体の書きぶりが若干大げさなので、この手の資格本のすべてを真に受けるわけにはいきませんが、控えめに見ても、悪い職業ではなかったと考えられます。

 もっとも、開業早々は、少額に甘んじなければならない、とも記されています。
 

定数制限

 司法代書人の認可のための試験は、地方裁判所が必要があると認めるときだけ行えばよいということになっていました。

 このため、試験が行われることもあるし、試験を行わないで一般人に認可されることもありました。裁判所や登記所を新たに設置する際に、多数の認可を出すようなときは試験が行われ、随時欠員や増員のために一名程度を認可する際には、試験は行われなかったそうです。

 また、裁判所の書記官や、裁判所書記官試験に合格したものは試験なしに認可されることになっていましたが、これもまた、その裁判所の予定人員を超えて認可することはないとのことです。

 要するに、まったくの裁判所の裁量で、その地域の必要数に応じて、認可がなされていました。

認可試験の内容

 実際に、大正8年ころに、東京地方裁判所で行われた司法書士の認可試験の内容は、

  一、電車事故による人体障害に対する損害賠償請求の訴状を認めよ
  一、廃家手続きの書面を認めよ
  一、離婚訴状を認めよ

とのことです。
 
 学力については、中等学校卒業程度の学力があれば申し分ないが、高等小学校卒業程度でも用は足りると記載されています。

司法書士になるために

 司法書士の業務を分類すると、訴訟事件、非訟事件、登記事件、検事局に提出する書面、その他競売事件、破産または和議事件、調停事件等がある、とのことです。

 司法書士は、主として裁判事件に関する代書を目的とする者と、主として登記事件の代書をするものに分かれている。訴訟事件をやるものは民事訴訟法を、登記事件をやるものは不動産登記法・商業登記手続きを研究せよ、となっています。
 
 当時の司法書士は、裁判所内で営業する者、裁判所外で営業する者を問わず、その裁判所の管轄区域内で認可される人数が制限されていました。この制限には、法律上確固たる数字があるわけではなく、裁判所の事件数に比例して決まっていたそうです。

 司法書士が1~3人の小規模庁では一人増員すれば他の司法書士への影響が大きいので、新規参入は望み難い。これに対して、司法書士数7~8人のエリアであれば、一人くらい増員されても他への影響は少ないので、認可を受けることも絶対不可能とは言えない、と書かれています。

司法書士になる方法

 司法書士になる方法としては、まず、裁判所内の司法書士は人数も少数だし、何らかの欠員補充の際に裁判所が老練な者を認可するだけなので、まずは、裁判所外での認可を目指すべき、とのことです。
 
 しかし、増員の余地や欠員の無いところに漫然と認可の申立てをしても、見込みはありません。

 このあたりの情報は、現地の代書人なら事情が分かりますが、彼らは商売敵が増えるのが嫌で、真相は教えてくれません。そこで、監督判事や監督書記、登記所の主任などに面会し、当地の情報や、増員や欠員の余地のある場所などの情報を収集し意見を聞くべきだ、とのことです。

 面会にあたっては、紹介状があれば一番良いが、なければ進んで出頭して、受付なりボーイなりに言えば、事務上の支障がない限り接見でき、意見はしてくれるだろう、とのことですから、昔はのんびりしたものですね。
 

司法書士になるための運動

 裁判所職員に接触して、脈があると観測された場合は、熱心に懇請して、運動をします。

 司法書士の認可願の出願は、事実上、裁判所の監督書記や登記所の主任の意見書に基づき認否が決まるので、彼らを押さえなければなりません。

 「現今の世想に於いては何事を為すに付ても表面的には勿論、裏面運動も盛んに行はれる」。大学や専門学校卒業者の就職においてすら、「折箱の重量」によって成否が決まるような極端な傾向があるのだから、それなりの運動は、「必要條件」、とのことです。

 懇請や運動をしても、人員制限のために目的が達せられない場合は、「行政代書人より徐々に進出する方法」が紹介されています。

 たとえ数年待ってでも司法書士を目指すと決めても、まったく縁のない商売をしていては、機会を逃すから、まずは町村役場や警察署を目的として容易に認可される、行政代書人を開業するのだそうです。

徐々に司法書士になる秘策

 行政代書人から徐々に司法書士に進出する具体的な方法としては、まず裁判所から少し離れた町村役場や警察署の周辺で行政代書人を開業するのだそうです。
 
 そして、司法書士の認可を出願する。
 裁判所と距離のある地で営業する無所属司法書士は、裁判所周辺の専属司法書士の収入高にあたえる影響が少ないので、認可を得るのが容易、とのことです。

 本来、司法書士と行政代書人の兼業は許されない扱いですが、その規定は裁判所周辺の専属司法書士にのみ適用されていて、遠方の無所属司法書士には適用されないのだそうです。

 少し理解が難しいですが、著者の書きぶりからみるに、こうした無所属司法書士は、扱える裁判所業務に制限があったようです。

 基本的に、郵便申請で足りるような簡易なものを取り扱い、時に訴訟事件や登記事件を扱うことがあっても後述する代弁式という特殊な方法をとる必要がありました。
 つまり、制限付きの簡易司法書士ですね。

 こうして行政代書人兼司法書士の認可を受けておいて、後に司法書士専門として進出することを目指すのだそうです。

 この方法によれば、行政代書の傍ら司法書士の事務を練習でき、司法役所に時々接近し得るので進出の機会をとらえやすく、機会を見出したときには新規出願者より経験を有するという有利な条件を具備することができる、とのことです。

 そして、進出の機会を得た際には、新たに司法書士の認可を得るのではなく、単に事務所移動の認可を得れば足りるのだそうです。

 

代弁式で登記業務ができる

 もうひとつの「徐々に司法書士になる方法」は、現在は無い「代弁式」で登記業務をはじめることです。

 これは登記所から遠く離れた山間の僻地の住民の登記事件のために、申請人自身の出頭に代えて、委任状を持って代理人として一切の処理をするという、便利屋式の方法でした。
 
 登記のために、辺鄙なら村落から、遠方の登記所に出頭するのは負担が大きい。まして、登記手続きに無知な一般の者が、その日に手続が終了するということは稀で、数回の往復を余儀なくされることがあります。そこで、最寄りの精通者に、委任して任せてしまうのが便利ということになり、地域によっては立派な商売になったのだそうです。

 この方式によれば、司法書士の認可を得なくても、登記業務をすることが事実上できました。

 司法書士法の「代書料を受ける目的」ではなく、登記事件一切の代理処理の委任を受け、「登記たる仕事の請負者であり其の完成迄の労務に対する報酬を目的とする」ものであって、司法書士法に違反しない、というような論理のようです。

 もっとも、どう考えても違法に近いグレーな行為なので、登記官によっては、代弁人が作成した書面を認めないことがあるそうです。その場合は附属書類だけを作成し、登記申請書のみ司法書士に書かせれば問題はないし、その分だけなら、さして司法書士費用も高くはない、とのことです。

 なお、代弁式では、双方代理は許されず、共同申請登記においては、格別に代理人をつける必要があるそうです。

行政代書人になる方法

 最後に、行政代書人になる方法ですが、これは司法書士のように役所ごとの人数制限がなく、無制限に許可されるので、「司法代書人の如き有望安全性は乏しいものである」、とのことです。

 資格に関する規定もないし、試験を行うこともなく、ある程度の学力があり、前科者とか著しい不行跡がなければ、何人でも許可されます。

 「開業後の事務も比較的平易なものであるから誰にでも出来ると云ってよい商売である」とすが、列記されている業務からみるに、当時は現在のように行政が高度化しておらず、複雑な許認可がなかったようです。

 人数制限がないため、自然同業者が多すぎる場合があり、その場合は役所の出入りに便利で、なるべく接近した場所に事務所を設けることが肝要です。

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